2017.04.10

孫正義vs三木谷浩史 男の6番勝負 最強起業家対決 ―後編―

BTCA 編集部

現在創業35年にして時価総額10兆円を視野に猛進するソフトバンクと、創業19年にして時価総額2.5兆円、ソフトバンクを追う規模まで成長をしている楽天。
規模こそソフトバンクが優位だが、これらの2社は同じ情報通信、インターネット業界において直接対決する機会が多いだろう。ソフトバンク創業者孫正義、楽天創業者三木谷浩史―両者ともに現代日本を代表する最強起業家と言っても過言ではない。では、どちらが最強の名を冠するのにふさわしいのか―今回は6つの観点から彼らを比較してみよう。

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【買収戦略】巧みさはどちらに軍配?

 

<三木谷は興銀時代ソフトバンクを担当していた>

三木谷浩史は日本興業銀行時代、ソフトバンクの孫正義、TSUTAYA増田宗昭の戦略ブレーンとして活躍していた。ユニークな2人の経営者を間近で支え、学んだ経営手法が今の楽天の急成長を後押ししているのではないだろうか。

三木谷は、1993年、ハーバードMBA取得後、帰国して企業の大型M&Aなどをアドバイスする本店企業金融開発部に配属された。

当時の孫といえば、94年7月に店頭上場を果たすとすぐに、米ジフ・デービスの展示会部門「インターロップ」、米インターフェース・グループの展示会部門「コムデックス」、ジフ・デービスの出版部門と大型買収を立て続け、破竹の勢いで事業を拡大させている最中であった。その孫へのアドバイザーとして、一連のプロジェクトを支えたのが三木谷だったのだ。

<ソフトバンク担当みずほ銀行営業第17部 電撃的なARM買収をサポート>

2016年7月、ソフトバンクがイギリスの半導体設計大手のARM社を3.3兆円で買収したというニュースは世界を驚かせた。

ARM社は、スマートフォンに搭載されているプロセッサーや、マルチメディアIP、ソフトウェアの設計を手がけており、主にアップルやサムスン、クアルコムといった顧客に、チップの設計を提供し収益を得ている。多くのモバイル製品がARM社設計のチップを採用しており、「世界中のスマートフォンの97%がARM社設計チップを搭載している」という、圧倒的なシェアを誇っている。

この買収劇を支えたのはみずほ銀行営業第17部だ。これは三木谷の興銀時代からソフトバンクを担当していた部署である。みずほといえば、ソフトバンクが2006年に英ボーダフォンを買収したときに1兆7820億円のシンジケート・ローンを、2012年に米スプリント・ネクステルを買収したときに約1兆8000億円の緊急協調融資をまとめた実績がある。

今回は、ソフトバンクが中国アリババの一部株式売却、フィンランドのスーパーセル、日本のガンホーの株式売却により約2兆円の資金を調達し、みずほから1兆円のブリッジローンを受けることで、買収を完了させた。三木谷の興銀時代から付き合いのあるソフトバンクとみずほだが、その関係は今でも健在のようだ。

<楽天トラベルの買収による成長>

楽天は2000年4月の店頭公開を契機に、ポータルサイト“infoseek”や“Lycos”、ゴルフ予約サイトなど次々に買収を重ねていった。当時楽天は、ヤフーが運営するYahoo!オークションやYahoo!トラベルなどに対抗するために、日立造船グループの社内ベンチャーから旅行予約サイトの最大手に成長した「旅の窓口」の買収の意思を固める。

ところが、日立造船が旅の窓口を手放さないということが分かるやいなや、2001年3月に子会社「楽天トラベル」を設立。その後、旅の窓口の運営に関わってきたスタッフを引き抜くなどの手法で楽天トラベルの事業を拡大させた。そして2003年、日立造船が本業の不振から旅の窓口を手放さなければならない状況に陥ったとき、即座に楽天は買収に動いた。その額、323億円である。

ちなみに、2002年度の楽天の連結売上は99億円、連結経常利益は22億円であったことから、三木谷のその大胆さを伺うことができる。三木谷は楽天市場やinfoseekとのシナジー効果を期待し、早期に買収金額に見合う収益増を図るとしていた。

結果は成功といえよう。現在宿泊予約サイトといえば、楽天トラベルとリクルートグループのじゃらんnetの2強の時代である。2014年度のトラベル事業の予約流通総額は6380億円、売上収益は372億4700万円、営業利益は151億8200万円と発表されている。孫と比べた場合、事業規模こそ違うが、国内市場での買収戦略は順調のようだ。

<バイバーの買収失敗>

国内市場における事業拡大が軌道に乗った楽天だが、自国の人口減少と低調な個人消費に直面している現在、海外に視点を移し、世界を巻き込んだ楽天経済圏を再構築しようとする目論見が伺える。その例として、楽天は2010年以来電子書籍のKobo(カナダ)、オンラインビデオプロバイダーWuaki.TV(スペイン)、Viki(シンガポール)などの海外企業の買収を続けていることがある。

これらの買収戦略と海外への展開という点では楽天はお世辞にもうまくいっているようには見えない。そしてその最たるものが2014年2月のバイバー買収であろう。

楽天は、2014年2月、スマートフォン向け無料通話アプリ大手バイバー・メディアを9億ドル(約920億円)で買収すると発表。そして同月、facebookがWhatsAppを運営しているワッツアップを190億ドル(約1兆9400億円)で買収するという発表した。2014年2月当時、Viberの登録者数は約3億人、WhatsAppの登録者数は4億5000万人であり、当時バーバー・メディアは赤字経営だったものの、その利用者数から見れば、facebookの10分の1以下の買収であり、お得であったように思えた。

おそらく当時の三木谷の目論見は、Viberが抱える約3億人のユーザーと、楽天がグループ全体で抱えていた2億人のユーザーを何かしらの方法で顧客基盤を統合し、楽天グループのプラットフォーム上で消費行動をする楽天経済圏を構築することだっただろう。しかし、当時から懸念されていたように、Viberには根本的な収益モデルがなかった。また、LINEやWhatsAppほどアクティブユーザー多くないという点、メインユーザーが新興国であるフィリピンやベトナムだったため、先進国に比べてデジタルコンテンツで高い売上を確保することが難しいという点がボトルネックとなり、当初の事業計画通りに収益化が進まなかったことが原因なのではないだろうか。

<コムデックス、キングステクノロジーの失敗とヤフージャパンの成功>

ソフトバンクは創業した1981年から1995年まで、事業の主軸はソフトウェアの卸売りと出版業であった。そのソフトバンクが大きくイメージを変えたのは1995年のこと。ジフ・デービス、コムデックス、キングステクノロジーなど、アメリカのIT企業を次々と買収していった。

当時のソフトバンクは、借金によって資金を集め、めぼしい企業に投資する―いわば投資銀行的な企業であった。そして、その投資も全て成功したわけでもない。数多くの失敗と、それを十分に補うだけのホームラン級の大当たりを引くことで、現在のソフトバンクがある。

孫は1995年、当時世界最大級のコンピュータ関係の見本市であるコムデックスを800億円で買収した。無謀だと言われていたが、世界最高水準の技術、新製品、そして世界をリードする経営者が集まり接触できる機会を手に入れられることから、買収に乗り切った。しかし、規模が拡大していく中で、業界関係者以外の一般の人にも公開してしまったことで、目的の意図が希薄になってしまった。追い打ちをかけるように、2000年代に入ると日米ともにITバブルが弾け、これまで高い株価を武器に展開していた時価総額経営が難しくなり、2001年に売却。

また、1996年、アメリカに拠点を置くメモリーモジュールのメーカーであるキングステクノロジーを約1600億円で株式の80%を取得。当時ソフトバンクが計画していたJスカイB計画における受信機の製造コストを下げ、競争力を高める狙いがあったと考えられるが、結果的に1999年に円換算543億円で売却。金利・配当などを考慮すると、470億円の実損で幕を下ろした。

一方で、ソフトバンクが大当たりを引いた投資先といえばヤフーだろう。ヤフーはインターネットの検索と同時に電子広告事業も展開しており、孫は当時、ヤフーの持つノウハウやデータを活用し、日本でも同様のサービスを始めたいと考えた。そして1995年に2億円を出資。1998年には追加で345億円の出資を行った。同時に日本法人ヤフー株式会社を設立した。結果的に1兆円を超える含み益となり、大成功を収めた。

<アリババの大成功。そしてどうなるスプリント、ARM>

ソフトバンクの投資で大成功を収めたもう一つの例としてアリババがある。2000年、孫は中国に行き、インターネットの会社を20社ほど見た後、アリババに20億円の出資を決める。アリババのCEO、ジャック・マーと5分会談しただけで出資を決めたというのだから、孫の勘の良さには恐れ入る。

そして2014年、中国のEC最大手のアリババが、米ニューヨーク証券取引所に上場し、上場後の時価総額は2300億ドル(約25兆円規模)に達した。2000年に出資した20億円が、その後14年間で価値は4000倍近くまで爆発的に伸び、その結果ソフトバンクはおよそ8兆円の含み益を手に入れた。

先にも少し触れたが、2016年にソフトバンクがイギリスのARM社を3.3兆円で買収したという話は世間を賑わせた。この買収の裏には、スプリント買収の失敗があるのではないかという見解もあるようだ。

2012年、アメリカの携帯電話会社第3位のシェアを誇るスプリントを1兆8000億円で買収したが、実は損益は赤字続きであり。事業活動のキャッシュフローも2011年度以降はマイナスになっており、ソフトバンク買収後も財務状況が良くなるどころか悪化しているのが現状である。

その結果、2012年から多額の買収を行ってきたソフトバンクの経営にも悪い影響を及ぼしていると言っても過言ではないだろう。2012年度以前の投資規模は7000億から8000億円程度だったが、2012年度以降はその3倍程度まで規模を拡大していた。しかし、スプリントの買収後、営業キャッシュフローの観点から見ると、ソフトバンクの業績は良くなっているとは言い難い。というのも、2010年度から2013年度までは7000億から8000億円程度の営業キャッシュフローだったが、2014年度は1兆1551億円、2015年度は9401億円となっている。2012年度から2013年度に行った空前の巨額投資は今のところ目立ったリターンがない。

このような状況下で、2016年7月ARM社の買収を発表。ARM社はほぼ無借金経営の優良企業であるが、その営業キャッシュフローのプラスを加算させても250億円がせいぜいといったところだろう。IoTという言葉が近年流行るようになり、モノの情報化が進む中、ARM社はこれからも伸びていくと予測されるが、今後どれほどの伸びを見せるのかは注目だ。

▼まとめ

楽天は国内市場において、隣接領域を取り込みながらそのシナジー効果をうまく活かして成長を続け、楽天経済圏と呼ばれる巨大な経済圏を作り上げている。一方で、バイバーやkoboなどの買収は目論見通りに楽天経済圏まで落とし込みきれていないようだ。
一方で、ソフトバンクのM&Aは失敗もホームランもあり、リターンで見てみるとソフトバンクの方が勝っているようだ。

【投資対決】evernote, pinterestに出資の楽天、ソフトバンクはインドに集中投資。

三木谷や孫は新進気鋭のベンチャー企業に対して投資を惜しまない。三木谷はevernoteやpinterestに目をつけ出資しているが、あまりうまくいっていないようだ。2012年、メモアプリを手がけるevernoteは、総額2億7000万ドルの資金調達をし、「ユニコーン企業」と呼ばれる評価額10億ドル以上の非上場IT企業の仲間入りをした。その出資者の中には、三木谷を含む国内の著名な経営者の名前が名を連ねており、株式公開に踏み切る有力候補として注目を浴びていた。

しかし、現実はそうは甘くなく、無料ユーザー数は増える一方で、有料サービス利用者はなかなか増えず、利益は伸び悩み、期待はずれの新サービスを始めては頓挫する…ということを繰り返してしまった。技術力があるゆえに、行き当たりばったりの開発ばかりに目がいき、サービスの質の低下や収益性に磨きをかけることに注力できなかったのだろうと予測される。

また、同じく2012年、楽天はfacebook, twitterに続き、SNS運営企業米国3位に位置づける写真特化のpinterestに出資を発表した。インターネット上から収集した写真を軸に、利用者間でコミュニケーションを行えるサービスだ。今回、pinterestが第三者割当増資により調達した金額は1億ドル(日本円で約80億円)で、楽天はその一部を引き受ける形で出資した。

写真特化型SNSをマネタイズするビジネスモデルを構築する上でECサイトとの相性が良かったという点と、楽天が日本市場で大きなシェアをおさえている点、ゼロから初めて成功した運営マネジメントのノウハウを楽天が持ち合わせている点が決め手となり、楽天が出資を勝ち取った。

しかし、2016年現在、pinterestが日本で大流行するほどヒットしているとは考えづらい。Instagramなどの台頭により、pineterestはなかなかその知名度を上げられずにいるようだ。というのも、pinterestがターゲットにしているのは、おしゃれに敏感な30代~40代のWASP(ホワイトアングロサクソンプロテスタント)の女性で、学歴も高くお金もある層だ。この層は、リテラシーが高く、人が持っていないものを欲しており、忙しくて買い物する暇がないのでpinterestにて衝動買いを行う…という特徴が挙げられる。ところが日本において、いわゆる「バリキャリ女性」の層はまだまだ薄い。さらに、おしゃれに敏感で、自分からおしゃれを発信しようと思う人はより限定的になるだろう。おそらく三木谷はここのマーケットを見間違えたのだろうと推測される。

一方で、孫の出資の大当たりといえばアリババだろう。ソフトバンクが株式の約3割を出資していた中国ECサイト最大手アリババが米ニューヨーク証券取引所に上場。アリババの上場後の時価総額は2300億ドル(約25兆円)に達し、2000年にソフトバンクがアリババに出資した20億円は、その後の14年で価値は4000倍近くまで膨れ上がり、結果ソフトバンクは約8兆円の含み益を手にしたことは先にも述べたとおりだ。

また、孫は「第2のアリババ探し」として、インドへ投資を集中させている。2011年には携帯電話プロバイダー首位のバルティ・エアテルとの合併会社を設立し、ネット広告会社インモビに2億ドル、メッセージアプリを運営するハイクに1400万ドルをそれぞれ出資した。

さらに2014年、ソフトバンクはインドのネット通販大手のスナップディールに約680億円を出資して筆頭株主になると同時に、スマホを活用したタクシー配車予約サービス、オーラキャプスを手がけるANIテクノロジーズに他の投資家とともに約230億円を出資。今後10年でインドに約1兆円を投資するという考えも表明しているほどだ。

孫はインドのネット市場、特にEC市場は今後も拡大すると楽観的な見立てており、2020年には300-400億ドルの市場規模になると予測されるなど、インドへの投資は順調な様子だ。

また、アリババのときのような期待をされているのがインドネシアの個人や企業が無料に出品できるマーケットプレイス、トコペディアを運営しているPT Tokopediaだ。インドネシアは世界4位の人口を誇り、その中でも順調にECの売上高を伸ばしている。第2のアリババのようなホームランになるのか、今後の動向に注目が集まる。

▼まとめ

孫は第2のアリババを当てようと、新興国で同様の伸びが見られる会社に投資をしている。進国で過去に実施したのと同じ戦略を、新興国でも時間軸をずらして展開することをタイムマシン戦略というが、インドやインドネシアなどさらなる後発の新興国で行う「新タイムマシン戦略」は今後も機能するか見どころである。
一方でpinterestやevernoteは数年前まではシリコンバレーを代表するベンチャー企業として注目を浴びていたが、大成功する兆しは未だ見られない。海外の投資の対決では孫に軍配が上がるように思える。

※画像引用元:東洋経済オンライン

総評

以上、孫正義と三木谷浩史の起業家としての質について見比べてみた。海外企業の大型M&Aを繰り返しているソフトバンクと、国内市場の地盤を着々と固めて国外市場の動向を伺っている楽天。国内で直接対決することの多かった両者だが、今後は国内での市場争いだけでなく、海外における直接対決をも見守ることになるだろう。

 

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